ボールルームは、
息をのむほどの静寂に包まれていた。
年配の女性は、
震える手で書類を見つめたまま、
何も言えなくなる。
男性も顔を青ざめさせ、
信じられない表情で立ち尽くした。
書類には、
日本政府の公式認証とともに、
若い女性の名前が記されていた。
そして、
その肩書きの下には、
誰も予想していなかった一文があった。
「国家特別監査委員会・主席監査官」
会場中が大きくざわめく。
若い女性は静かに一歩前へ進み、
穏やかな声で告げた。
「私は一年間、
身分を隠して、
あなたたちの違法行為を調査していました。」
その瞬間――
ボールルームの扉が開き、
黒いスーツ姿の調査官と警察官が一斉に入ってくる。
責任者は年配の女性へ近づき、
厳しい表情で告げた。
「脱税、
贈収賄、
資産隠しの疑いにより、
関係資料を押収します。」
年配の女性は力なく後ずさりし、
男性も震える声で叫ぶ。
「そんな…。
全部あの女の仕業だったのか…。」
若い女性は静かに首を横へ振る。
「違う。」
「あなたたちを破滅させたのは、
私ではない。」
「自分たちの傲慢さと、
犯してきた罪よ。」
その言葉に、
誰一人として反論できなかった。
やがて、
警察官は二人へ静かに告げる。
「これより事情聴取のため、
同行をお願いします。」
年配の女性は崩れ落ち、
涙を流しながら、
引き裂いた純白のドレスを見つめた。
若い女性は破れたドレスをそっと整え、
静かに言った。
「ドレスは縫い直せる。」
「でも、
人の尊厳を傷つけた傷は、
簡単には元へ戻らない。」
そう言って彼女は背を向け、
堂々とボールルームを後にした。
残された招待客たちは、
誰一人として言葉を発することができなかった。
その日、
誰もが胸に刻んだ。
本当に価値があるのは、
身にまとう服ではない。
どんな相手にも敬意を忘れない、その心こそが何よりも尊いのだ。